空き家再生プロジェクトvo.1  トークイベント開催レポート

リノベーションまちづくり マイナス資産からの価値創造
早朝に東京で地震が発生した9月12日(土)、静岡市葵区七間町にあるスノドカフェ七間町で18時から開催された。静岡市で初めての「リノベーションまちづくり」に関するイベントであり、来客者数は定員を大幅に超え、収容最大人数となる超満員となった。

DSC_0679■空き家再生リノベーションとの出会い
建築家ができる社会貢献として、まちづくりとの関りがある。日常業務では、新築の建物をつくる事に対して、より良い解決を導く事が建築設計の主な業務といえるだろう。それに対して、近年は使われる事がない空き家がこの静岡でも増えてきており、平成20年の段階で約4万戸の非賃貸住宅が空き家という静岡市役所のデータがある。理由は様々であるが、人口減少時代において、新築を建てる事はそのまま空き家が増えることを意味している。さらに、人口減少と長期の経済停滞によって、地域の活力が失われてきている。特に過疎地域は、地方都市よりも以前から深刻な状況が続いている。

坂東氏の故郷に近い徳島県神山町でもその対応のため、様々な活性化策を講じている。そのひとつが、リノベーションまちづくりだ。空き家をリノベーションして、移住希望者や企業を都会から誘致して活性化につなげる試みを2010年から行っている。じつは、坂東氏は最初から地域のために活動するということを目指したわけではないとの事。東京芸術大学、ハーバード大学大学院という高学歴であったにも関わらず、ニューヨークでリーマンショックによる様々な出来事に遭遇したことから、神山町で募集していたアーティスト・イン・レジデンスという制度を利用して、今後の建築家活動の基盤を探ろうということがそもそもの神山町との出会いだった。その後、東京芸術大学で講師をするようになったあとに、あらためて学生を連れての空き家再生活動が始まった。
引き受けた坂東氏も、当初は経験がない仕事であったため、不安も大きかった。しかし、依頼してくれたグリーンバレーの大南氏から「やったらええんちゃう」という後押しを受けて神山のために奔走する覚悟ができたとのこと。若い建築家に仕事を任せて、自由にやらせてくれる環境がなかったら出来なかったという坂東氏の言葉が印象深い。どこにでも問題点を突いて反対する人はいて、新しい試みが進まなくなることで、意欲を失った若者は自己実現ができない場所から去っていく。そのような事も地域から若者が流出する原因ではないだろうか。

 

 

DSC_0694■マイナスからプラスへ
これ以降、少しずつ空き家をリノベーションしていく事になるが、ほどなく神山町と坂東氏にとって大きな転機が訪れた。東日本大震災の影響から、東京のIT企業が、バックアップ機能をも含む施設「えんがわオフィス」を空き家のリノベーションによって構えたことだ。これよって一気に神山町にサテライトオフィスが進出してくるようになった。結果、過疎地に若者が働きたい企業が移ってきたのだ。さらに都会からの移住者も転出者よりも多くなってきている。これは全国でもほとんどない事例という快挙であり、政府からもロールモデルとして注目されるに至る。
実は、東京から神山町まで時間距離で考えると思ったより近い。羽田から飛行機で一時間半程、徳島市の空港から車で神山町まで40分程度、2時間少々で着いてしまう。東京と大阪間のぞみ新幹線の2時間30分程度よりも近い。そう考えると高速ネット環境があれば、地方であってもおおきな支障はないとの事。むしろ、新しいワーク&ライフスタイルを提示できることは、人口減少時代における今後の人材確保手段としても大いに役立つとの事。このような実例から考察すると、今までと異なる見方と価値観があれば、空き家は活力を生み出す資源と言えそうだ。

 

 

 

■静岡でも空き家再生から街を活性化させたい
最初はクロストークという形で代表の前田から質疑から始まった。行政との関りはどうであったかという話では、邪魔されない事だけしか求めていないとの事。リノベーションまちづくりは、住民の自治からはじまっているので、行政はフォローするだけという今までと逆の形が望ましい。つまり、住民の自主性がないと出来ないので、行動力を発揮できることが求められよう。静岡は保守的な市民性ということがよく言われるので、いきなり大きな問題が出された形となった。
次に、空き家の所有者からの使用許可や利用者とのマッチングはどうなっているだろうか。神山では、空き家の利活用の実績が数件できた段階から所有者から使ってほしいという申し込みが増えて、利用希望者がある程度選べるぐらいにまでなったとの事。以前は空き家を貸し出すことを断る人が多かったが、実例が住民の意識を大きく変化させたようだ。触発された会場の若い参加者から、多くの意見が飛び交う充実した質疑応答へと変わっていく。空き家のリノベーションにかかった費用や、セルフビルドに参加するボランティアの学生に関するもの、かなり工事の具体的な話もあって具体的に空き家再生を志す人にとって貴重な情報であったようである。さらに、感度の高い人・企業を一本釣り的に巻き込む手法というようなノウハウも聞き出していた。若い建築家からは、地域に外の人材が飛び込んでいる区域は多くあるのか、という自分の同世代の活動にも関心があって刺激をうけたようだ。印象的な質問では、東京と地方との関係性をどう考えているのかというものがあった。若い人には、東京に拠点があることで坂東氏の活動が成り立っているのであって、自分達にはできないのではないか、という不安からだ。坂東氏からは、確かにそういう面もあるかもしれないが、結局「やったらええんちゃう」というスタンスで、まずはやれることをやってみる、そうすることで必ず現状が変わる。目標は広めに設定しておき、方向性だけは変えないことですべては成功へと繋がる。おおまかな計画はしても、まずは始めることが重要というアドバイスに会場の参加者の表情からは多くの賛同を得られたようにみえた。

■まとめ
アンケートから、今回のイベントで空き家再生に関する具体的なイメージを感じて頂いたと感触を得た。今後、更に活動を発展させて、リノベーションまちづくりへの賛同者を増やすことで具体的な実績棟数を増やし、地域活性化にも繋げていきたい。

DSC_0705  トークイベント 坂東